パパ、ママ。どうしてプリントしないの?

みなさんは可愛いわが子のアルバムを作っていますか?
デジタルカメラや携帯電話で撮影した写真、撮りっぱなしにしていませんか?
パソコンに取り込んだけれど、あの時撮った写真が探せない、そんなことはありませんか?

こんな文章で、先日FUJIFILMからトークイベントの案内メルマガが届きました。

私は昨年娘が生まれて以来、妻と二人で毎日のようにデジカメやスマホで写真を撮っていますが、
これまでアルバムを作ったことがなく、一度だけアルバム代わりにアコーディオンブックというフォトクラフトを作ったことがあるだけです。


なぜ、アルバムを作らなくなったのでしょう?

作らないといけない気もしますが、キッカケがないのかお店に行くのが面倒なのか。
そもそも私はアルバムを作るための現像(プリント)をしません。
プリントさえすれば形やデザインの良し悪しはどうあれアルバムに写真を入れると思うので、
プリントしたくなるきっかけ、そしてアルバムを作りたくなるきっかけ、アイデア、方法があるかも知れないと、2012年12月5日に開催された、「アルバムの日スペシャルトーク『アルバムつくってます』」に参加してきました。

このイベントで印象に残った登壇者の佐野史郎さん(俳優)、平間至さん(NO MUSIC, NO LIFE.の写真家)藤本智士さん(雑誌Re:Sの編集者)のコメントを紹介しつつ、なぜ自分がプリントもせず、アルバムも作らない理由と、どうしたらプリントしたくなるかというアイデアをまとめてみました。


■佐野史郎さん曰く「プリントするとお金かかりますよ。」

イベント登壇者のお三方は、イベントに合わせて自分で作ったアルバムを何冊も持参してきてくれるほど、フィルムカメラやアルバムの愛好家。
藤本さんを中心に、これまでアルバムエキスポを2回開催され、アルバムの良さ、アルバムで残すことの大切さを伝えてきたそうです。

アルバムエキスポの開催目的、活動内容は藤本さんのお言葉を借りると、こんな感じ:

・「ママの2人に1人がアルバムを作っていないと知り、“あかんあかん”と思った。」
・「アルバムに込めた親の愛が薄まってきたので、何とかせないかんと思って開催した」
・「アルバムエキスポをやろうと思ったのは、ママへのインタビューで“アルバム作ってますか?”と聞くと、“すいません。まだ…、”と申し訳なさそうに答え、どっかで作らなきゃと思っているんだなと感じたことがきっかけ」
・「エキスポ来場者は“アルバムいいね”と言ってくれるが、帰宅してアルバムを作るわけではない」
・「そこで2回目はアルバムの作り方や、色んなアルバムの形を展示した」



う~ん、聞いているとアルバムを作らないと親失格のような、娘に愛情を注いでいないような気がしてきます。

でもって、皆さんのアルバムの良さに関するコメントがこちら:

平間さん:「アルバムのいい所は人に見せられるところ。」
佐野さん:「アルバムを作ると、自分がどう考えているかわかる。」
藤本さん:「10年、20年先を思ってモノづくりをするのは、アルバムだけ。」
平間さん:「アルバムを見返さないと思い出せないことが沢山ある。」
藤本さん:「アルバムは誰かのために、という気持ちで作るものでは?」


しかし、佐野さんのこの一言で会場が閉口&失笑。

「アルバムを作るのは正直面倒くさいですよね。」


・・・そうなんです。
レイアウトに凝ったり、コメントをつけたり、更にそのコメントを吹き出しの台紙を作ってから入れようとしたりすると、とても腰が上がりません。

うんうんと頷きつつ、加えて私はそもそもプリントをしません。
プリントさえすれば、マスキングテープやスタンプなどでデコったりしないまでも、写真屋さんでもらえるファイルには入れるので(=これは最低限“アルバムを作る”と言っていいと思います)、
どうすればプリントしたくなるか?が、アルバム作りポイントであることは間違いありません。

この「プリント」についてのコメントのやり取りをご紹介しましょう:

佐野さん:

「デジカメで撮る、SNSにアップする、インスタグラムやるけど、プリントしいないですよね。溜まっていくばかり。」
藤本さん:

「フィルムとデジタルの違いが一番大きいと思っている。SDカードに無限にデータが入るが、フィルムは36枚撮りで、制限がある分どこか丁寧に撮っていたのではないか?」
平間さん:

「写真館で撮ればアルバムになって出てくる、、、それが根本的な違いでは?」
(注:自分がカメラで撮る、という行為はプリントすることが前提ではない、という事)
藤本さん:

「東日本大震災の写真救済プロジェクトで発見したことは、ここ10年の写真がないということ。今のデジカメというシステムは、写真をプリントできるようになってない。」
藤本さん:

「カメラにプリントするための一本道が必要だと思っている」


メモしていた私の手が止まったのは、藤本さんの

「デジカメというシステムは、写真をプリントできるようになってない」

という発言です。


■写真を楽しむためのプロセスと体験はどう変化したか?

そこで、フィルムカメラとデジカメ及びスマホで
「撮影」、「プリント」、「アルバムを作る」という工程とそれを通じて得られる体験の違いを下記の図に整理してみましたのでご覧ください。

「閲覧」「共有」「整理」「編集」という写真体験の“楽しさ”がある。


まず、フィルムカメラは「撮影する」「プリントする」「アルバムを作る」というプロセスにおいて、各プロセスを経ない限り「閲覧」「共有」「整理」「編集」といった楽しさを体験できないようになっていました。

一方、デジカメ及びスマホは「プリントする」プロセスを経ないでも「閲覧」「共有」の楽しさを体験でき、「アルバムを作る」プロセスを経ないでも「整理」「編集」の楽しさを体験できるようになりました。

藤本さんが指摘する「デジカメというシステムは、写真をプリントできるようになってない」という発言は、上図に照らし合わせて考えると、

「写真をプリントしなくても、写真体験の楽しさを享受できるようになっている」 

と言い換えてよいかもしれません。


ここで、一考したいのは、デジカメやスマホで前倒しで体験できるようになった、「閲覧」「共有」「整理」「編集」体験の質についてです。

まず、「閲覧」体験ですが、プリントをせずとも閲覧体験を楽しめるようになったことで、プリントすることの必然性と、仮にプリントをし、アルバムを作ったとしても、「閲覧」することのの楽しさが低下。
もっと言えば、フィルムカメラの時のような感動は味わえないのではないでしょうか。
そのため、私たちはデジカメやスマホの写真プリントに対し億劫というか「別にいっか」という気持ちになっているのかも知れません。

また、これまでフィルムカメラでは24又は36枚撮りのネガフィルムを写真屋さんに出せば全てプリントしてくれたのに対し、デジカメやスマホはメモリーカードの容量制限いっぱい撮れるようになったことで、プリントする写真を「選別」しなければいけないようになってしまいました。


この「選別」というプロセスはプリントした24又は36枚から厳選するのは良いとして、
容量制限がほとんどないからと、何の気兼ねもなくパシャパシャとシャッターを押し、同じシーンを何枚も撮りためた結果、何百何千枚という中から、写真を選ぶのは大変苦しい作業です。
それに、全てをプリントするなど費用がかかって仕方ありません。


次に、「整理」「編集」プロセスは、アルバムを作るプロセスを構成する作業でありながら、写真を楽しむ体験でもあるという点です。
佐野さんの「アルバムを作るのは正直面倒くさい」発言と相反しますが、
コメント欄が用意されたアルバムに、当時の様子を思い出して一筆書き入れるのは楽しくなかったでしょうか?
現像された写真をどんなアルバムにせよ、順番を考えて入れていく作業は楽しくなかったでしょうか?


 写真の整理、編集というと、時間順にアルバムに入れていくのが一般的かと思いますが、
例えばディズニーランドで七人のこびと全員を撮影できた場合は、撮影の合間にその他のアトラクションやスペースで写真を撮っていたとしても、その時間軸は無視して七人のこびとを並べたくなりませんか?
平間さんはプリントした写真が増えすぎて、写真整理がどうしてもできなくなった時、時間軸はめちゃくちゃな状態で「いろはにほへと」で編集したそうです。
(「い」なら「“い”まにも歩き出しそうな赤ちゃん」といった具合の整理方法です。かるたのようなものですね)

これらの整理、編集プロセスが、デジタルの場合だと楽しさよりも苦しみや面倒くささが勝っているような気がします。

まず、デジカメの場合は撮影したデータをPCに移すという外部機器接続の手間が発生します。
次に、フォルダを作成してデータ分類を行ったり、データタイトルを変更したりすることができますが、ここまで手間暇をかけて整理できる人がどのくらいいらっしゃるでしょうか?
(ちなみに、佐野さんはデジカメで撮影した写真一つ一つにタイトルをつけているそうで、藤本さんから「それは相当マメですよ!」と突っ込まれていました)

私はタイトル編集したこともなければ、フォルダ分けしたこともありません。。

また、アルバムは長い時間家族や一人でも友人とでも見ることができますが、デジタルフォトフレームやスマートフォンはそうした見方に適していませんし、一覧性にも優れていません。(これは偏見ですが、PC上で小さな写真のサムネイルを並べて、「一覧性に優れている」と言える方はどうかしていると思います)

このように、フィルムとデジタルによる体験の質の違いから生まれる「閲覧」「整理」「編集」行為に対して、現在のデジタル機器やシステムは最適なスタイルを提供できていないような気がします。
(唯一、SNSなどですぐに家族友人に写真や動画を送り、送った相手からの反応が早く返ってくる「共有」体験だけはうまくいっていると考えます。


■デジタル全盛時代の楽しい写真体験とは?

フィルムからデジタルへと写真を楽しむ機器とシステムが移行してきた流れにあって、うまく対処したのがフォトブックでしょう。



デジカメやスマホで撮影した写真を製本してくれるこのサービスは、
「閲覧」「共有」体験においてはデジカメ、スマホと同様ですが、フィルムがプリントプロセス後に行っていた「整理、編集」体験の楽しさをプリントプロセス前に移行させたことで、
先に閲覧や共有をしていたとしても、「編集」を加えたことで同じ写真でも異なる閲覧体験を提供することができたため、面倒な整理、編集プロセスを体験しなければならないとしても、それを乗り越えることができるのだろうと思います。

フォトブックの成功を鑑みると、写真の「閲覧」における新たな楽しみ体験の提供が、一つのカギを握っているように考えられます。


さてさて、ここまで書いてきて、改めて私自身がプリントしたくなるか?アルバムを作りたくなったか?と問われたら、やっぱり私はプリントしないと答えるでしょう(必然的にアルバムも作らない)。

理由はこれまで述べた「整理、編集」体験が苦痛(面倒くさい)であるという事と、
既にスマホの液晶画面でデータを「閲覧」したことによる新鮮味のなさです。

さらに、この写真閲覧体験の新鮮味のなさ、という点と絡めて、
「写真で表現することの難しさ」をプリントしない理由に挙げます。

トーク冒頭で、平間さんが写真表現と文字表現の違いについて、

「写真にうつる情景、空気感を文字にするのは難しい」という趣旨の発言をされました。

これは一見正しいようでですが、一方でカメラを通して見た情景、空気感を一枚の写真で表現することもまた、難しくはないでしょうか?

例えば、私は毎月撮りためた娘の写真を選別し、ネットプリントサービスを利用して実家の両親に送っており、その写真一枚一枚はその時々の娘の様子を写したものでありますが、
両親はただこれらの写真を見るよりも、
「この写真を撮った時は、すごい寒かったんやけど、コンビカーを押して走り回っているうちに汗だくになって、この後着替えたんやで」
という風に、私がその時々の様子を説明しながら見たほうが、得られる「閲覧」の楽しさは大きいでしょう。
(もちろん、私にとっても「閲覧」「共有」の楽しさが大きい事は言うまでもありません)

その時の様子を動画で撮るには長すぎますし、ひたすら写真で撮り続けることもできません。
こう考えると、写真一枚が持つ情報量はわずかであり、こうした説明が物理的にできない場合、
写真に手紙などで説明を加えるなどしなければ、より豊かな写真閲覧の楽しさは味わえません。

「だから、その時の様子をまとめてアルバムを作り、コメントを添えればいいじゃないか」、と言われるかもしれませんが、その前提であるプリントをするのが億劫な訳です。


ずいぶん、長くかかりましたが、
ここで、スマホやデジカメからプリントしたくなるであろうポイントをまとめてみます。


・既に液晶画面で見た写真でも、プリント後に異なる「閲覧」体験を得られるようにする。
・整理、編集プロセスの苦しみを、楽しい体験に変える。
・伝えたい情景や空気感を、写真で表現できるようにする。


このポイントを実現するためには、現行のアルバム作り、写真の整理、編集の方法はもちろん、
写真はL版1枚にプリントするのが基本、といった常識すら覆すようなインターフェースやシステムが必要になってくると考えます。



■写真の「閲覧」「整理」「編集」「共有」をもっと楽しめる新しいサービスを作る!!

既にカメラメーカー、プリントサービス企業はもちろん、ITスタートアップ企業が、この問題に対してチャレンジしています。
イベント当日、藤本さんが披露したアイデアと合わせてご紹介しましょう。

・藤本さんアイデア
『大切な「重い出」はフィルム。気楽な「軽い出」はデジカメで分けて撮れるハイブリッドカメラがほしい。』

・デジタルの無限性に一石を投げかけた、“10秒間だけ写真を共有できる「SnapChat」”
http://www.techdoll.jp/2012/12/12/snapshot_10seconds/




 
 ・定額制なのでプリントしないと損!なサービス
毎月15枚のプリント写真をお届け『フォトクル』
http://photokul.com/



ここから先は私の思いつきです。

・時限デジカメ
上記「SnapChat」と同じ考えですが、「いつまでも、あると思うな、デジカメ写真」ということで、
いつまでもあると思うからプリントしないため、デジタルデータであっても一定期間すぎるとデータが消えてしまうようにすることでプリントを促進します。

・プリント直結フォルダガジェット

デジカメの写真を指定のフォルダに移すと、そこからネットプリントが注文できるようになる。

色々ありますが、どれもピンとこないので、
こうした写真の「閲覧」「整理」「編集」「共有」をもっとラクに、楽しめるような体験にできるよう、
新しいアプリ及びWebサービスを作りたいと思います。


※追記(2013年6月30日)

以上のような考えをベースに、解決の一案として、子供の写真や動画を、簡単に整理、編集できるアプリ『スクスクロール』を作ってみました。
本稿で記述した「共有」「印刷」体験のソリューション提供までは至っておりませんが、「整理」「編集」の一体験としてよろしければお使い下さいませ。

☆インストールはこちらから☆

https://itunes.apple.com/jp/app/sukusukuroru-xie-zhen-dong/id660157588?mt=8 




※関連記事も合わせてどうぞ。

「PHOTO! FUN! ZINE! 」に行って、子供の写真の残し方を考えてみた。

親バカパパがッ! ジョジョで! 考えるゥゥゥ!! スマホ時代の写真の残し方

操作がスイスイ気持ちいい。子供の写真整理&編集アプリ『スクスクロール』

新しい写真整理の動詞~「Stack(スタック)」


【2013.10.3追記】
こんな関連ニュースが出ていました:
『写真の価値は認めるのに印刷はしない、スマホ時代に問われる複合機のあり方』
http://ascii.jp/elem/000/000/822/822345/index-2.html

(キヤノンマーケティングジャパン)では、プリントしない理由を調査したところ、「写真を選ぶのが手間」が51.0%、「パソコンを経由するのが面倒」が46.1%、「いくつもある保存先からプリントするのが面倒」が42.0%、「保存先からのプリント方法が難しい」が40.0%となった。そのほかにも、「クラウドやスマホに対応していない」、「プリントするお店が遠い」などの声もあがっている。いずれにしろ、「手間」や「面倒」といったことが、写真をプリントしない理由にあがっているのだ。
手間や面倒というPAINがプリントのハードルになっている事は一因ですが、それ以外の「プリントする事が楽しくて仕方ない」新しいスタイルの提案も必要な気がします。

このブログの人気の投稿

オラリティとリテラシー。~子どもが世界を知る二つの経路

著者が解説『プ譜』とは何か?概要とテンプレートを紹介します(動画あり)

高崎線の四人ボックス席で帰るプロジェクト 後編